
未来を知ることができたら、私たちはより良い選択を取ることができます。
重回帰分析は未来を予測する「モデル」を見つけることができます。
もちろん、神様ではないので完璧に未来を見通すことはできません。
ですが「この周辺を通るだろう」という精度の高いあたりをつけることが可能です。
特に「物件の査定」には相性が良く、頻繁にモデルケースに用いられます。
回帰分析は、不動産会社そして売却主に売却金額の根拠を齎してくれます。
・「 築年数 × 平米数 × 駅距離 = 売却価格 」の予測モデル
・「 店舗面積 × 人口 × 営業人数 × 店長力 = 新店舗売上 」の予測モデル
・「 追客時間×モチベーション×営業力=営業の売上 」の予測モデル
経営判断にも使用できます。

なにやら聞いたことのない用語や細かな数字なが並んでいます。
私は文系の人間なのではじめはちんぷんかんでしたが、慣れればこんなに便利なものはありません。回帰分析は機械学習などにも用いられています。
上記はとある地域の「中古戸建の売却価格」について回帰分析を行なった結果です。
ツールはエクセルをしようしています。
誰しも簡単に扱うことができるのでぜひ活用してください。
売却価格の「予測モデル」をつくる

決定的な説明変数で分析をしよう
分析には以下の4点を用いました。
〈予測に使ったもの〉
・ 土地面積
・ 建物床面積
・ 駅距離
・ 築年数
〈予測したいこと〉
・ 売却価格
REINSの成約事例をもとに左のような表を作成しています。どの説明変数を用いるかを選ぶことはとても重要です。今回の目的は「物件価格」なので例えば「人口密集度」や「所得平均」などはあまり関係なさそうです。マンションなどであれば「所在階数」などは重要な説明変数になります。
そう言いつつも、回帰分析の決定的な説明変数はそこかしこに隠れていることがあります。上記の「人口密集度」「所得平均」の関係性が高いこともあります。「手元にあるデータをすべて入力して、不要なものを削っていく」という手法もあるくらいです。ですから、先入観を持ちすぎずに取り組むことが良いとされています。
適した期間のデータ
あまり過去に遡りすぎると現状と合致しない傾向があります。
例えば、「バブル期」や「リーマンショック直後」などを入れてしまうと外れ値が多く含まれてしまうので、予測を立てる現在の状況と大きく外れない時期のデータを収集します。
2019年現在であれば不動産景気が好調になり始めた2016〜2019年頃を採用すると良いかもしれません。
予測モデル「回帰式」

データから建てられた予測モデルを「回帰式」と言います。
今回の場合は上記のようになります。
「土地」「建物」「駅距離」「築年数」の上部は回帰式で求められた係数です。
下部には今回求めたい物件の条件が入力されています。(切片は求められた定数です。)
小数点第一位までに限った式として表現すると以下のようになります。
( 81.9 × 土地面積 ) + ( 40.0 × 建物面積 ) + ( -92.7 × 駅距離 ) + ( 15.6 × 築年数 ) + ( -1647.5 )
予測モデル回帰式が完成しました。
ここに今回知りたい物件の具体的情報「土地面積」「駅距離」などを入力します。
( 81.9 × 42.72 ) + ( 40.0 × 88.3 ) + ( -92.7 × 2 ) + ( 15.6 × 13 ) + ( -1647.5 ) = 5,400.668
約5,400万円での売却価格が予想されました。
信頼性のチェック!
決定係数R2・補正R2
回帰分析はどんな数字を当てはめても必ず結果が現れます。仮に全く関係のないデータを集めてきて入力しても回帰式自体は作ることができてしまいます。
ですから、本当に今回の結果が信頼性に足るのかを確認しなくてはなりません。

そこで確認するのが「重決定R2」「補正R2」です。ここに記されてある数字が「1」に近ければ近いほどよく当てはまっており、結果の信頼性が高いと言えます。どちらを参照しても大丈夫ですが、補正R2のほうが良い場合が多いです。
厳密な規定はなく、一般的には0.8〜1.0であれば信頼でき、0.5〜0.79であれば参考、それ以下は当てはまりが良いとはいえません。
今回の場合は0.91なので十分に信頼できる回帰式になっています。
「モデル+物件個性」で最終判断
モデルと個別ケースを組み合わせる
十分に信頼できる回帰式が得られました。
おそらく売却価格に大きなずれはないと思います。
しかし、あくまで「様々な事例の平均値を用いたモデル」なので、実際に物件を当てはめると個性によって金額に差が現れます。
例えば、「有名建築家に依頼して建てた注文住宅」であれば金額が伸びることもありますし、築年数が新しくても「ゴミ屋敷」では金額はモデルにも届かないと考えられます。
(補足:私の経験では重決定R2が0.9を超えた場合、殆どは予測金額と売却金額の差は100-200万円以内に収められていました。一方で外れてしまったケースは上記のように特殊な状況でした。)
モデルがあると判断が楽になる
モデルを作成して「絶対に外さないアタリ」をつけておきます。そして、自分の経験とも照らし合わせます。
経験と合致すれば自信を持って物件価格を提示できます。
一方、経験と合致しなければどちらかに欠けている部分があるはずです。
「この物件は未入居に近いから高く売れるのでは?」など個別のケースが大きい要因なこともあるでしょうし、「最近この周辺を査定していなかったから相場がずれていた!」という気づきになることもあります。
現場の判断を助けることができるのが回帰分析です。
売主さんも納得できる
査定の「根拠」に使える
私は、査定の根拠として回帰分析を使用していました。
売主さんは「できれば高く売りたい」と考えています。
ですが、あまりにもかけ離れた金額で預かっても売れずに放置してしまうことになります。
チャレンジ金額で出すとしてもかけ離れない金額で預かることは不動産会社のためでもあり、売主さんの利益のためでもあります。
数字を用いることで客観性が生まれます。
殆どの方が回帰分析の結果に根拠を感じられ、現実的な販売価格(プラス100万円200万円程度)を売主様から提示されるようになりました。
ただし、悪用は許されません。
金額の低いデータのみを集めた回帰分析で誘導することは決して行わないでください。
信頼が失われ、自分の首を絞めることになります。
経営判断に用いる
経営判断の根拠が手元にある
最初に記させていただいたように「新店舗の売上予測」「営業マンの売上予測」などに用いることができます。
経営判断は未来を予測することです。
それは筆舌に尽くし難いほど「困難」なことです。
回帰分析が、その困難に日々立ち向かっている経営者の手助けになれば幸いです。
